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ここでの“ボンサイ”とは「盆栽」と「凡才」との二つの意味を含みます。盆栽のように、マシンをカスタマイズすること自体を楽しんでいる凡才人のブログです。

標高3,015m [旅日記]

今週月曜日は富山県で一番高い山、立山に登ってきた。
真っ青に澄み切った空の下、山頂でますの寿司を食べてご機嫌で下山するも、2つの失敗が重なって、つらい下山行程となってしまった。
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今回は室堂ターミナルから一ノ越という峠を経由して、雄山、大汝山、富士の折立の順に歩き、雷鳥沢に下りてミクリガ池へ登り返し、室堂ターミナルに戻ってくるというルートを歩いた。
大汝山までの登りで2時間半、下りは3時間ぐらいかかるだろうか。
見込み通りにいけば、9時に歩き始めても午後2時半には戻ってこられる。
遅くても午後5時までに室堂ターミナルに戻れば、その日のうちに滋賀に帰れるのだが、金沢まで新幹線に乗らずに在来線の各駅停車に乗って帰りたいから、タイムリミットを3時半ぐらいに設定する。

標高3,015mの大汝山だが、スタート地点の室堂ターミナルは約2,450mなので標高差だけを見れば600mに満たないハイキングレベル。
3,000m越えを初めて経験するわたしには、いい入門コースといったところだ。
じつは、わたしは山歩きが好きとは言え、高い山に登った経験は少ない。
基本的には森の中を歩くのが好きなので、森林限界を超えることがあまりないのだ。
森を歩いて、ついでに山頂を目指すことはあるが、高山植物すら生えないような2,500m以上の山には一度も登ったことがない。
せいぜい3,400mまで電車で行って30分ほど氷河の上を歩いたり、2,700mまでリフトで行って氷河の上でスキーをしたり、そんな程度。
2,800mを越えると高山病の症状を見せる人もいると言うから、はたして自分はそんな標高で山登りに耐えられるのだろうか。
旧友が片道4~6時間はかかる3,000m超級の山に登ろうと言い出したので、それまでに一度は標高3,000m以上の高山を歩いてみなければと思い立ち、来年あたりに考えていた大汝山登頂を前倒ししたのであった。

14日、月曜日の朝5時すぎにホテルをチェックアウトし、電鉄富山駅から5:29発の快速急行で立山へ向かう。
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リュックの中には前の晩に用意したお弁当。
ますの寿司を8等分のピザ切りにして、ラップで包んでリュックに詰めてきた。
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ますの寿司はわたしの大好物のひとつである。
ただし、コンビニのおにぎりコーナーに並んでいるヤツは好きじゃない。

初めて食べたのは小学生のときだった。
一口で好きになったなあ。
水球の全国大会に出るため保護者同伴で富山に来た際に、母が土産に買って帰ったのだ。
食卓に並べられたますの寿司は、母の手により、すでに笹の葉が剥かれてピザ切りにしてあった。
その後も、近所のスーパーで駅弁フェアみたいなのがあると、母は必ずますの寿司を買ってきた。

初めて自分で買ったのは、大学受験の帰りだった気がする。
覚えている状況は、おそらく485系と思われる国鉄色の電気釜特急だったことと、窓の外が暗く、車内はほぼ満席で荷物棚にスキーケースがいくつもぶら下げられていたことぐらいだ。
車内販売のワゴンの中にますの寿司があるのを見つけ、迷わず買って、いそいそと笹を剥き始めた。
しかし、桶の中でいくら剥いても折り癖の付いた笹はすぐに閉じてしまって、なかなか寿司の全貌を見せてくれない。
すると見かねた隣のおじさんが、こうして食べるといいよと教えてくれた。
まず、笹を剥かずに桶を逆さにし、蓋に丸ごと乗せてしまう。
次に、蓋をまな板代わりに、付属のプラスチックナイフで笹ごと一緒にピザ切りにして、笹越しに掴んで食べると手も汚れない、というスンポウだ。
今まで母が切って皿に盛り付けてくれたから、こんなのは思いも付かなかった。
なんだかひとつ親離れした気がした。

そして、前回の記事でご披露した、痛恨の富山駅置き去り事件だ。
あまりにもますの寿司に執着しすぎて、乗ってた列車に置いていかれるという失態をやらかした。

味わい深くて、思い出深い、富山の名物、ますの寿司。

今では滋賀県内にある名神高速の多賀SAでも買えてしまうので、うちの食卓では和歌山名物「柿の葉寿司」や若狭名物「焼き鯖寿司」とローテーションを組んで、3ヶ月に1度のペースで登場する。

おっと…つい、ますの寿司を熱く語って前置きが長くなってしまった…

立山駅に着くと、立山ケーブルカーの改札前にはすでに長い列ができていた。
前日は雨模様の天気を理由に月曜に延期したが、月曜の第一便でもこの盛況である。
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ケーブルカーとバスを乗り継いで、室堂ターミナルに到着したのは8:15ごろ。
身支度を調え、歩き始めたのは8:20ごろだった。
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一ノ越まではコンクリートで固められた遊歩道が敷かれていて、トレッキングシューズよりも軽くてしなやかなスニーカーのほうが快適に歩けるぐらいだ。

もう花の季節は終わったころかと期待していなかったが、ヨツバシオガマたんがまだ咲いていた。
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チングルマたんは花が終わって、綿毛の季節。
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標高2,600mあたりで遊歩道に雪渓が横たわる。
念のために軽アイゼンを持ってきたが、このぐらいの距離と斜度ならそのまま歩いても大丈夫か。
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遊歩道の脇には雪解け水が流れ、結晶状に張った氷がきらきらと朝の光を反射させる。
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顔を上げれば、くねくねと急勾配を登る遊歩道。
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本日最初の試練だ。
この勾配が標高2,700mの一ノ越まで続く。

9:20ごろ、一ノ越に到着。
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ここからがきつい。ちょーきつい。
コンクリートの遊歩道もなくなって、酒樽ぐらいの岩がゴロゴロしてる。
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10:00ごろ、標高2,900m付近にやってきた。
雄山の山小屋がだいぶ近くに見えるようになったが、ここからがさらにきつい。でらきつい!
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気温は10℃ぐらいか。
冷たい風が吹き付けるようになってきたのでウィンドブレーカーを着こむ。
大岩の間を縫って急勾配を登るようになってくると、トレッキングポールは邪魔になる。
ポールはリュックにしまって、岩に手をつき四つん這いになるような格好でよじ登る。
視界に映るは灰色の岩と砂ばかり。
脳内シアターで、田中陽季が緑いっぱいの馬の背をツッタカツッタカ走っている映像を流して気分を上げていくが、なんだか軽い立ちくらみのように平衡感覚が狂う。
岩に腰を下ろすと震度1ぐらいの揺れを錯覚して、岩がぐらついてるんじゃないかと怖くなる。
やっぱり空気が薄いのか。
黒雲母が少なめの花崗岩が強い日差しを反射して目がちかちかする。
高山ではサングラスも欲しいかなあ。
ときどき足を休めて景色を見渡すと、そのたびに下界が少しずつ遠くなる。
もうこんなところに登ってきたのか、とモチベーションが回復する。

10:20ごろ、標高3,003m、雄山に到着。
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南の雲の上には、にょっきり槍ヶ岳。
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南東の雲の上にはプッチンプリン。
そのうちぷっちんしに行ってやるからな。
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黒部湖を挟んで向かい側、長野県との県境に並ぶ鳴沢岳や赤沢岳といった2,600m級の峰を見下ろしながらお弁当ターイム。
ばりうめー!!これまで食べてきたますの寿司の中で一番うめー!
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10:40ごろ、雄山神社の裏手から大汝山への吊り尾根へ歩き出す。
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Rock! Rock! 岩だらけ!
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ずんずんじゃーん ずんずんじゃーん
うぃーうぃる うぃーうぃる ろっきゅっ!
アップダウンはそこそこあるし、足下は不安定で岩から岩へ跨いで渡るような道だが、雄山までの登りを思えばボーナスステージみたいなもの。
鼻歌交じりに大汝山へ向かう。
11:00ちょうど、あっけないぐらいに大汝山山頂に到着。
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これにて富山県で一番高い山を征服。
西を見下ろせば室堂平が箱庭のよう。
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東を見下ろせば黒部ダムがおもちゃのよう。
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見込みどおりに2時間半で頂上に着いたから、予定通りに富士の折立へ向かって歩き出す。

11:30ごろ、標高2,999m、富士の折立に到着。
富士山の方角に折れるように立っているから「富士の折立」てことかな?
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富士の折立を過ぎると急峻な岩肌を一気に下って、荒涼とした馬の背まで下りる。
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遠目には細かく風化した砂利に見えて足に優しそうだが、実際はゲンコツほどの石がデコボコに敷き詰められたようなもので、意外と歩きにくい。
馬の背を登り返せば真砂山(まさごやま)だが今回はパスして、左の斜面をトラバースする。
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雷鳥沢まで尾根伝いにまっすぐ下る「大走ルート」は殺風景な足下を見ながら延々と下る。
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がれがれぽー!
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歩きにくいし後頭部はジリジリと日に焼かれるしで、だんだん飽きてきたころ、ようやくイワギキョウたんが「おかえり」と迎えてくれた。
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雷鳥くんの声も聞こえるし、ハイマツが日陰を作っているところで小休止して、姿を現すのを待ってみるのもいいねえ。
さて、エネルギー補給にチョコレートを…

あれ?ない。
リュックのどこを探してもない。
ジャケットやら飲み物を出したときにこぼれて、どこかに置き去りにしたか?
後でわかったのだが、駅のコインロッカーに預けた旅行カバンに、宿泊セットと一緒に突っ込んでしまっていたのだ。

がーん、不覚!
行動食を忘れてきてしまうとは。
山登りのように大量にカロリーを消費するときは、こまめに糖分を補給しないとハンガーノックとか低血糖とかいう状態になって、動けなくなるらしい。
そこまで行かなくても、血糖値が下がると気持ちの踏ん張りが効かなくなるものだ。
仕事で遅くまで残業するときは夕飯を食べずに働き続けることがあるが、頭の回転が鈍くなってぜんぜん能率が上がらないし、ちょっと手を抜きたくなる気持ちが頭をもたげてくる。
歩いているときは足を上げるのをサボってしまい、ちょっとした地面の突起につまずいて、よろけることなんてこともある。
いつもなら、3時間以上歩くときは板チョコを1枚、5時間以上歩くときは板チョコ2枚と非常食を持っているのだけど、今回は行動食も非常食も置いてきた。

予定では、あと2時間で室堂ターミナル。
30分も歩けば雷鳥山荘にたどり着くはず。
まあ、ナントカなるでしょ。
ここで悲観的に考えたところで事態が解決するわけでもなし。

やあ、ミヤマリンドウたん、ボク、おなかすいちゃったよ。
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雷鳥沢まで下りて、室堂平の方角へ目を向ければ、紅葉が始まった灌木の尾根が見えた。
ああ、あれを登り返せば室堂平か。
しかし、きつそうだなあ。
それ、もう一踏ん張り。
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だが、これが間違っていた。
というか、地図で確認する作業をサボっていた。
本来のルートならミクリガ池の縁を歩くことになるはずなのだが、いっこうにその気配が見えない。
それに、沢を挟んで向かいの尾根のほうが、稜線を歩く人が多くて賑やかだ。
頭にハテナマークを浮かべながらも、遊歩道を整備する業者が作業している現場を通過して、ここが室堂ターミナルから延びる遊歩道の一部だと思い込んでしまった。

14:00、そろそろ室堂に着いてもいいはずなのだが、室堂ターミナルの建物はいっこうに沢の向こう。
それどころか、道は建物に背を向けて、さらに標高を上げようとしている。
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なんかこれ、ちがうぞ。

やっと地図を見る気になった。
そもそも室堂ターミナルだと思っていた建物は、室堂山荘という別の建物で、歩いてきたのは一ノ越へ上る道だった。

おーまいがーっ!
神様、レッドブル様、あの沢を飛び越え、室堂まで飛べる翼をください!

うーん、戻ってミクリガ池へ登り直すか、一ノ越まで登って、朝登った道を下るか…
水平距離だけなら一ノ越へ登ったほうが近そうだ。
しかし、道の様子はわからない。
戻れば雷鳥沢にキャンプ場があって、テントもけっこう張られていたから、最悪の場合は角砂糖1コぐらいは分けてもらえるかも。
ここは戻った方が安全だろう。

戻って30分。
登り直して1時間半
トータル2時間ぐらいのタイムロスになるだろうか。
まだ滋賀までの最終便には余裕はあるな。

30分かけて来た道を戻り、雷鳥沢野営場を通り抜けて本来の道へ復帰する。
目の前には長い急階段。
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うぇぇええ、もういやだー。
風が冷たくなって、ガスも出てきた。

雷鳥荘まで水平距離で500m、標高差100mほど。
後ろから来る登山客に次々と追い越されるペースで、ゆるゆると登る。
地獄谷から硫化水素を含んだ風が吹いてきたので、タオルを口に当てて、呼気で湿らせながら息をする。

あー、甘いものが食べたい。
空飛ぶアンパンが来ないかなあ。

やっとの思いで雷鳥山荘に到着し、スポーツドリンクとチョコレートを買って元気を回復した。
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ほっと一安心で、残りの1.2kmを歩き、15:40に室堂ターミナルに到着。
タイムリミットを過ぎてしまったけれど、この日は15:55に室堂を出る臨時バスが来たので、当初の予定通り、新幹線を使わなくても滋賀まで帰れる時間に立山駅まで下りることができた。
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もう、こんな忘れ物はしちゃあいけないなあ。
事態が悪い方向に転がれば、遭難しかねない流れだ。


さあ、来月は鳥取で一番高い大山(だいせん)だ。
去年は悪天候で中止にしたのをリベンジしに行かなければ。
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コメント 4

TS

置き去り事件はそういう経緯だったんですね。(笑)
…いや、結果的に無事だったからレアな思い出話ですが、雪国でまともな防寒着なしに電車を待つのは生死に関わる事態ですよね…。(汗)
でも、相手がますの寿司なら仕方ないですね。
自分は一度しか食べた事が無いんですが、アレは美味いです。

空飛ぶアンパンにも爆笑してしまいましたが、疲労時の甘いモノ欲しさに耐えるのは辛いですよねぇ。
自分は日常の緩い残業ですら甘味が欲しくなる軟弱者ですが。(笑)
by TS (2015-09-19 19:12) 

わたべ

来た道を引き返すのは、賢明で冷静な判断でしたね。
道を間違えた時に、冷静さを失ってショートカットしようとする、そんな経験があります。
結局ひどく苦労することになるのですが。
by わたべ (2015-09-19 19:41) 

あおたけ

立山登山、お疲れ様でした。
お天気が回復して絶好の登山日和、
そして順調に頂上へ到達・・・だったみたいですが、
下山にルートを誤るという落とし穴があったとは、
このような判断もやっぱり、
血糖値に低下によるものでしょうか。。。(^^;)
登り直して戻るのは大変でしたが、
無事に下山できて、何よりです。

ますのすし、お写真を見ていたら久々に食べたくなりました。
美味しいですよね~(^^)
by あおたけ (2015-09-20 15:16) 

nozzy

>TSさん
駅員さんに相談したら、最初は「もう北海道旅行はあきらめて帰ったら?」なんて言われましたが、荷物は列車の中だし、これから札幌に帰るところだと話したら何とかしてくれました。
しかしホント、空腹時の残業は堪えますねえ。
一時は残業時に利用できるように社食が夕方もやっていたのですが、予約が必要だったので使いにくかったです。
昼の時点で残業が確定してるなんて、なかなかないですから。
それも結局、残業を減らすという名目の元、なくなってしまいました。

>わたべさん
おそれいります。
今回のわたしも、なんどショートカットしようと思ったことか…
でも、地形的にムリがあるので思いとどまりました。

>あおたけさん
おっしゃるとおり、空腹感と焦りが連鎖的に引き起こした判断ミスなのでしょうねえ。
転んでケガをすることもなく、また、乗り鉄プランに支障を来すことなく無事に帰ることができました。
by nozzy (2015-09-20 18:10) 

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